航海記

DXは、システムを入れ替えることではない。カンロが挑んだ4年間の業務改革。

~20年ぶりの基幹システム刷新を成功へ導いたプロジェクトマネジメント~

カンロ株式会社(以下、カンロ)では、2021年から約4年をかけて販売・生産・物流・原価管理などを対象とした約20年ぶりの基幹システム刷新プロジェクトを推進。20257月に本番稼働を迎え、その後の安定稼働を確認し、プロジェクトは無事完了しました。

今回お話を伺ったのは、プロジェクトマネージャーを務めたデジタルソリューション本部 情報システム部 部長の明石様と、プロジェクトの中核メンバーとして現場を支えた同部 係長の安達様。お話を伺う中で印象的だったのは、お二人とも「システム刷新の話」ではなく、「業務改革の話」をされていたことです。そして、その改革を技術面で支え続けたのが、株式会社ラキール(以下、ラキール)でした。

4年間に及ぶプロジェクトを成功へ導いた意思決定とその背景にあった考え方、そしてラキールとの協働について伺いました。

「システムを入れ替えること」を、プロジェクトの目的にしなかった

20年ぶりの基幹システム刷新。

それだけを聞くと、「老朽化したシステムを最新システムへ置き換えるプロジェクト」という印象を受けます。しかし、明石様は、プロジェクトの出発点はそこではなかったと振り返ります。

【お話を伺った方】 右から
デジタルソリューション本部 情報システム部 部長 明石一恵様
デジタルソリューション本部 情報システム部 係長 安達悠貴様

ー 約20年ぶりという大規模な基幹システム刷新でした。最初にプロジェクトで大切にされていたことを教えてください。

明石氏 当時の基幹システムはIBMAS/400を使っていて、その中の環境が生産と販売に分かれていました。それぞれにAS/400が存在しているような状態でしたので、データの型が異なっており、マスタ登録をそれぞれに行う必要がありました。また、新しい施策を進める時に、以前のシステムでは既存の帳票だけでは分析できないことが出てきました。そのため、私たち情報システム部から現場へ都度データを提供する必要があり、現場で自由にデータ活用ができないことが課題だと感じていました。

そのような課題感の中で、私たちが最初に決めたのは、「システムを入れ替えることを目的にしない」ということでした。もちろん20年以上利用してきたシステムでしたので、刷新そのものは必要でした。ただ、システムだけを新しくしても、業務が変わらなければ、このプロジェクトは成功とは言えません。

本当に実現したかったのは、会社全体の業務改革です。基幹システムの刷新は、その実現に向けてDXのスタートラインに立つためのデータ基盤を整えるものであり、あくまで手段にすぎませんでした。

ー 業務改革を目的に据えたことで、プロジェクトの進め方も変わったのでしょうか。

明石氏 大きく違ったと思います。もし「システム導入」が目的であれば、システム部門が中心になって進めればよいかもしれません。ですが、業務改革が目的であれば、営業や生産、物流、経理など、実際に業務を行っている現場が主体にならなければ意味がありません。

そのため、プロジェクトの初期段階から各部門に参加してもらい、「新しいシステムをどう使うか」ではなく、「これからどんな業務にしていきたいか」を一緒に考えることを大切にしていました。

最大の課題は、技術ではなく「現場の不安」だった

システム刷新のプロジェクトでは、技術的な難しさに目が向きがちです。
しかし、稼働前の最後の1年でプロジェクトマネージャーに就任した明石様が「最も難しかった」と振り返ったのは、意外にも技術ではありませんでした。

ー 4年間のプロジェクトを振り返って、一番難しかったことは何だったのでしょうか。

明石氏 システムの技術的な要素ではなく、現場の皆さんの「不安」に向き合い、取り除くことでした。

基幹システムは毎日の業務そのものです。新しいシステムになると聞けば、「本当に業務が止まらないのか」「今までどおり仕事ができるのか」と不安になるのは当然だと思います。
実際、プロジェクト期間中には、他社で基幹システム刷新後に大きな障害が発生したというニュースもありました。それも一社ではなく、立て続けに何社か似たようなトラブルが起き、事業に大きな損失を出しているといった情報が入ってくると、「うちは本当に大丈夫なの?」という声が社内でも聞こえるようになりました。

そんな時にプロジェクトマネージャーとして私が考えたのは、「プロジェクトのゴールを再定義すること」でした。

ー 「ゴールを再定義する」とは、どういうことでしょうか。

明石氏 一般的には、「予定どおり本番稼働すること」がプロジェクトのゴールになりがちです。

でも、私たちが本当に目指すべきなのは、「安心して使える状態で安定稼働すること」です。予定どおりシステムは切り替わっても、翌日から業務が混乱してしまっては意味がありません。だから、プロジェクト全体でも「安定稼働」を共通のゴールとして、あらためて共有し直しました。

「すべてを一度に変えない」という意思決定 ~EDI先行切り出しの英断~

「安定稼働」をプロジェクトのゴールに据えたことで、プロジェクトの進め方にも変化が生まれました。

その重要な意思決定の一つが、EDIシステムを基幹システム本体より1年前に先行して切り出すというアプローチです。これはラキールからの提案を受けて決断されたものです。一般的には、新しい基幹システムの稼働と同時に、周辺システムも一斉に切り替えるケースが少なくありません。しかし、カンロでは異なる判断をしました。

ー EDIシステムをAS/400から先行して切り出すというアプローチについて、どのように捉えていらっしゃいますか?

明石氏 一番避けたかったのは、「何か問題が起きた時に原因が分からなくなること」でした。基幹システムの切り替え時は、データ移行や業務切り替えなど、本当に多くのイベントが重なります。そこへEDIの切り替えまで重ねてしまうと、万が一トラブルが起きた場合、一斉に不具合が出て収集がつかなくなる事態も考えられますので、そのリスクを抑えられたのが一番良かったと思っています。

安達氏 この決断によって取引先との通信のテストを事前に済ませられたことにより、その後のプロジェクト進行では、新システム稼働後のオペレーション変更や運用サポートに注力することができました。実はISDN回線のサービス終了という背景もあったのですが、いずれにしても弊社のプロジェクトの状況を踏まえて、ラキールから最適なタイミングでご提案いただけたのは心強かったです。

プロジェクト全体から見ると、大きな意思決定だったのですね。

明石氏 そうですね。もちろん、その分だけ準備や検証の期間は必要になります。ただ、それによって本番稼働時のリスクを一つでも減らせるのであれば、その方が良いと判断しました。ビッグバンで何かやると良くないことが起きることは経験から予想できましたので、切り離せるものは切り離したい。その中でもEDIは私たちの「生命線」で、受注や配送業務にも使われている機能なのです。

振り返ってみても、この判断はプロジェクト全体の安定につながったと思っています。プロジェクトマネジメントでは、「最短距離で進むこと」が正解とは限りません。少し遠回りに見えても、リスクを減らせるのであれば、その方が結果として成功に近づくこともあります。

データ移行は、最後まで妥協しない ~AS/400からの複雑な移行を乗り越える~

EDIと並んで、プロジェクトの中でも特に神経を使ったのがデータ移行でした。

長年運用してきた基幹システムには、日々の業務を支えてきた膨大なデータが蓄積されています。
その一つひとつが、新しいシステムでも正しく扱えることを確認しなければなりません。

ー プロジェクトにおいて、特殊な文字コードからの変換作業が膨大だったと聞いています。実際にはどのような苦労がありましたか。またラキールのスタッフとの連携はいかがでしたか?

安達氏 データ移行は、単に「移せば終わり」ではありません。正しく移行できているか、そして現場で問題なく利用できるか、そこまで確認して初めて完了と言えます

特に今回は長年利用してきたシステムでしたので、データ量も多く、独立して稼働していた別々のシステムを一つにするという課題がありました。当初はどうしたものかと頭を抱えていましたが、ラキールの方に相談に乗っていただき、一つ一つステップを確認しながら、その都度具体的なご提案をいただきました。それがなければ乗り越えられたかどうか分からないと思うほどにお世話になりました。データ移行は地道な作業ではありますが、この工程で妥協すると、本番稼働後に現場へ大きな影響が出てしまいます。だからこそ、「大丈夫だろう」ではなく、「確認できた」という状態を積み重ねながら進めていました。

明石氏 タイトなスケジュールにも関わらず、ラキールの方には最後まで丁寧に伴走していただきました。本当に「伴走」という言葉のとおりで、ともに走ってくれたのがありがたかったです。まずEDIの切り替えがあり、そしてデータ移行、さらにはインフラの支援。すべての領域で助けてもらいました。

ベンダーではなく、一緒に意思決定するパートナーを求めた

ー プロジェクトを進める中で、ラキールにはどのような役割を期待されていたのでしょうか。

明石氏 インフラやアプリに加えて、外部との通信まですべて見ていただけるベンダーってなかなかいないんですよね。そういう意味では、技術的な支援はもちろん期待していました。ただ、それ以上に期待していたのは、「一緒に考えてくれること」です。

プロジェクトでは、「この判断で良いのか」「他にもっと良い方法はないか」と迷う場面が何度もあります。そうした時に、「他社ではこういう進め方もあります」「この場合はこういうリスクがあります」と、一緒に整理しながら考えてもらえたことは非常に助かりました。言われたことに対応するだけではなく、プロジェクト全体を見ながら伴走してもらったという印象です。

ー 安達様はいかがでしょうか。

安達氏 データ移行やEDI切り替えは、少しでも判断を間違えると本番に影響する可能性があります。だからこそ、不安な点があればすぐ相談し、一緒に確認しながら進めていました。

まるで弊社の社員のような視点で、一歩踏み込んだ、深いご提案をしてくださったり、弊社のスケジュールを尊重してくださったりと、私の中では「発注先」という感覚はありませんでした。同じゴールを目指すプロジェクトメンバーとして、一緒に取り組んでいたという印象の方が強いですね。

「システムが変わった」ではなく、「組織が変わった」

20年ぶりの基幹システム刷新は、20257月の本番稼働を経て、大きな混乱なく安定稼働を迎えました。

しかし、お二人が振り返るのは「システムが予定どおり動いた」という話ではありません。むしろ印象的だったのは、「組織が変わった」という言葉でした。

ー 本番稼働から約1年が経過しました。プロジェクトを終えて、最も大きな変化は何だったと感じていますか。

明石氏 もちろん新しい基幹システムが稼働したこと自体も大きな成果です。ただ、私自身が一番変わったと感じているのは、会社の中で「業務をどう改善していくか」という会話が自然に増えたことです。

以前はどうしても、「今の業務をどうシステムに合わせるか」という考え方になりがちでした。一方で、今回のプロジェクトでは、各部門が何度も議論を重ねながら、「会社全体としてどうあるべきか」という視点で業務を見直してきました。その経験を通じて、「もっとこうした方が良いのではないか」という改善提案が自然と出てくるようになったのは、大きな変化だと感じています。現場が自由にデータを取り出せるようになったので、自分たちでダッシュボードを作り、分析し始める部門も出てきました。データを自分たちで使うという意識変化も大きな財産になりました。

安達様はいかがですか。

安達氏 私も同じですね。プロジェクトの最初は、「システム部門のプロジェクト」という見方をされることもありました。でも、何度も話し合いを重ねる中で、少しずつ「自分たちの業務を自分たちで良くしていこう」という意識が生まれていきました。

稼働前には何度も現場に入り込んで不満や改善要望を吸い上げました。そうやって築いた信頼関係のおかげで、今では、以前に増して業務改善について相談を受けることも増えています。「まず現場で考えてみよう」という雰囲気も感じています。システムが変わったというより、「組織」が少しずつ変わってきたことが、一番大きな成果かもしれません。

DXは、ここからが本番

今回のプロジェクトでは、新しい基幹システムの稼働によって、販売・生産・物流・原価管理などのデータ基盤が整いました。しかし、お二人とも口をそろえて話されていたのは、「ここがゴールではない」ということでした。

ー 今後のデータ活用やAI活用などのビジョンを教えてください

明石氏 今回のプロジェクトで、ようやくスタートラインに立てたという感覚です。

以前は、必要なデータを集めるだけでも時間がかかる場面がありました。これからは、データをもっと業務改善や経営判断に活かしていきたいと考えています。

また、最近はAIという言葉を聞かない日はありません。もちろんAIにも期待していますが、AIは魔法ではありません。正しいデータがあり、業務が整理されていて初めて価値を発揮するものだと思っています。そういう意味でも、今回の基幹システム刷新は、AI活用に向けた基盤づくりでもあったと考えています。社員がAIを業務で使えるようになるためには、いくつかのステップが必要です。一足飛びに活用を求めるのではなく、段階的に進めていきたいと考えています。

情報システム部としては、守りと攻めのバランスが重要だと思っていますが、今後は少し攻めの戦略を考えていく必要があります。AIの話もそうですが、社会全体の労働人口が減っていることやインフレ時代への本格的な突入など厳しい外部環境を踏まえ、カンロの成長のために何が必要か、AI活用を含めた様々な取り組みについて社内で議論を深め、攻めの領域へ挑戦していきたいと思っています。